朧月夜と春の海

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『チェルノブイリハート』

2011年9月30日 著者 マリアン・デレオ  発行所 合同出版

日本語版提供 タキシーズ

チェルノブイリ・ハートとは、“穴のあいた心臓”、“生まれつき重度の疾患を持つ子ども”の意味である。
ベラルーシでは現在でも、新生児の85%が何らかの障害を持っている。1986年4月26日、旧ソビエト連邦(現ウクライナ)のチェルノブイリ原子力発電所4号炉で爆発事故が起き、国際評価尺度レベル7に達した。放射性降下物はウクライナベラルーシ、ロシアを汚染した。原発から北東へ約350キロ以内に、高濃度汚染地域「ホット・ゾーン」が約100ヶ所も点在し半径30キロ以内の居住は禁止されている。映画は、ホット・ゾーンの村に住み続ける住民、放射線治療の現場、小児病棟、乳児院の実態に迫る。
今なお続く被曝被害の実態に迫ったドキュメンタリー作品完全ガイドブック。」
「1986年に起きたチェルノブイリ原発の大惨事から16年後、国土の99%が放射能で汚染されたベラルーシ。この国の乳幼児死亡率は他のヨーロッパ諸国に比べて3倍も高く、肢体不自由で生まれた子どもは事故前に比べて25倍、内臓に明らかな異常をもって生まれてくる子どもが大勢いる。今なお続く放射能汚染の重篤な健康被害を映し出したドキュメント。2003年第76回アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞受賞作品「チェルノブイリ・ハート」公式ガイドブック。」

プロローグ

1986年4月26日 史上最悪の原子力事故が発生した。

ウクライナ共和国チェルノブイリ原発事故は、190トンの放射性ウラニウムと放射性黒煙を大気中に拡散させた。

ヘリコプターによる空からの消火活動。 

のべ60万人の“リクビダートル”(事故処理作業員)は、大量放射能を浴びた。事故以来、死亡したリクビダートルの数は1万3000人以上といわれる。

 着の身着のまま非難する住民。

 ブルドーザーで取り壊される建物。

 チェルノブイリ住民は、広島原爆の90倍もの被曝をした。

避難民の総数は40万人を超えた。

汚染地域内では2000以上の集落が廃村となった。

ひときわ大きな放射能被害を受けたのは子どもたちである。

 

ChapterⅠ チェルノブイリ・ハート

ChapterⅡ ホワイトホース

ChapterⅢ メイキング

「原子力事故はどこででも起こりうる。テロも同じだ。世界中には476基の原子炉がある。

いま、こうしている間にも、ニューヨーク市からわずか35マイル(約50キロ)の距離にある「インディアン・ポイント原子力発電所」では、避難計画を作るきざしはいっこうにない。人は強欲と狂気ゆえに大都市のこんな近くで原発建設を容認した。万一、この原発で事故が発生した場合、ニューヨーク市は、むこう2万5000年間居住不能となるだろう。政治家や経済人たちは廃炉を巡っていまなお議論を続けている。よしんば廃炉にしたところで、危険は残る。

 ベラルーシを去る時に、ネツェレンコ医師が言った。

「国に帰ったらすべての原発を廃止するよう伝えて下さい。原発は危険すぎます。世界は、原発を持てるほど文明化していません」」

解説 『チェルノブイリハート』をどう観るか

崎山 比早子(元放射線医学総合研究所主任研究員・高木学校)

ー長寿命のセシウム137による汚染は測定範囲が拡がるにつれて深刻さが認識されてきている。セシウムは水に溶けやすく、拡がりやすいため体内汚染も引き起こす。私は、この元素の健康影響について調べていて、Yu.L.バンダジェフスキー氏の論文に行き当たった。彼はゴメリ医科大学の元学長で病理医である。病理医として死亡した人の死因を解明するために、臓器のセシウム汚染度を計測し、組織変化をも調べていた。そして、セシウムが一般に言われているように骨格筋に蓄積されるというよりはむしろ、甲状腺や内分泌器官に広く蓄積され、しかも、子どもの臓器では重量あたりの蓄積量は大人の2倍から3倍にもなると報告している。子供の放射線感受性が大人の3倍から10倍にあると考えると、その危険性は甚大だ。

ーバンダジェフスキー氏はベラルーシで、セシウムが遺伝的障害や深刻な健康被害をもたらすことを発表した。低線量放射線は健康にほとんど影響しないとしていた政府は、彼が入学試験の賄賂汚職をしたという内容で禁固8年の刑に処したそうである。翻って日本では2011年8月1日付で今年度の「朝日がん大賞」と「対がん協会賞」の受賞者が発表された。選者は日本対がん協会垣添忠生会長)である。大賞には7月に福島県立医科大学副学長に就任した山下俊一氏が選ばれた。彼は福島の高汚染地区にいって

「放射線の影響はニコニコ笑っている人には来ません。くよくよしている人に来ます。これは明確な動物実験でわかっています。」「環境汚染濃度、マイクロシーベルトが100マイクロシーベルト/時を越さなければまったく健康に影響を及ぼしません」と保障した。彼が「朝日がん大賞」を受賞した理由は「チェルノブイリ原発事故後のこどもの甲状腺がんの診断、治療や福島第一原発事故による福島県民の健康調査や被曝医療への取り組みが評価されたから」だそうである。

 世の東西を問わず権力とはこういうものということを象徴してあまりある。しかし、明らかになるのは時間の問題である。問題はその時になって、傷ついたDNAを元に戻そうと思っても、それは不可能であり、取り返すことはできないということである。

 この映像が明らかにしているように現在の愚策のつけを背負うのは未来世代なのだ。」

 

取材をおえて、検査で放射能が検出されたとき、セシウムの排出に濃縮したリンゴのペクチンが役立つと治療にすすめられたそうです。この本とは違うのですが、以前何かで、チェルノブイリ事故と関係のあるエピソードで、病院の子どもに何かほしいものはない?と尋ねたとき、「モルヒネ」と答えたのがずっと記憶に残っています。

映像の写真がたくさん挿まれ、分かり易く読みやすいです。

事実が淡々と述べられているのですが、ホワイトホースは読んでいて、とても悲しかったです。