朧月夜と春の海

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『ロンドンの負けない日々』

2005/9/10  著者 高尾慶子  文春文庫

「ロンドンでの入れ歯づくりをめぐっての大騒ぎや、ベッカムをしのぐオーウェンの人気ぶり、最愛のヒルダおばさんの死など、長い英国生活に裏打ちされた、歯に衣着せぬ痛快かつ心暖まるエッセイ集。訪欧した天皇の前で日の丸を燃やし抗議した元英国軍兵士がヒロシマを訪ね、日本軍の元通訳と再会する感動的なドキュメントも収録。」

 この著者の本は、機会があると読んでいるように思います。ワールドカップの話題など、私が外の世界に全然目が向かなかった時期の熱気の渦など浦島太郎状態で楽しみました。そして、戦争もずっと昔のことだと思っていたのに、生まれる前のことだけど、そんなに昔のことではなくて、そのことを語り伝える人もどんどん高齢になってしまっていて、当時のことについて、断片的にでも知らないことを伝えてくれること。

 『「慶子さんはいいよね。なんでも言ったり書いたりできる。あなたが強いのは失うものがないからだ」といった。 黙って屈するより、一応、発言することを…。 --- この就職難に何でもったいないことを、と人は思うでしょうが、だれかが抵抗しないと世の中は変わらないのです。就職難の時代だからと強いものの言いなりになってばかりだと、世の中は利己的な人の天下になります。誰かが立ち上がらなければならないのです。日本という国も国民も、ずーっと長いものにまかれてきました。でも。当否は別として真珠湾攻撃の時は堪忍袋の緒を切るという拳に出ました。江戸時代だって、吉良上野介に我慢できず、切腹覚悟でとびかかっていった赤穂の殿様もいます。  私はカトリックの信者として私の信念のままに生きます。失うものなど何もないと思っています。』 靖国神社はおかしいでは『問題は、あの太平洋戦争をはじめ、他国を侵略し、むごい扱いをして戦犯として処刑された軍人や政治家まで一緒に祀ってあることだろう。他国民、自国民を問わず、殴ったり蹴ったり、怒鳴ったり、拷問を命令したり、やたら処刑をしたりした者と、された人および純粋に国のために死んでいった若者とを同じに考えること自体がおかしいと思わないのか、私は不思議に思う。  ードイツにだって、一般戦死者の墓地があり、教会がある。けれど、戦犯は一般戦死者と一緒に葬られてはいない。- それに、戦犯になって処刑されたような人々は、戦争中、ずっと安全な場所にいたはずで、永瀬先生の話では、前線で闘わせられて戦死した階級の低い兵隊は、戦後、国としての遺骨収集も行われず、今もって、タイやビルマ(ミャンマー)、フィリピンの深いジャングルの中にほったらかしだということである。「英霊は今もジャングルの中で、深い海の底で、遺骨を収集されるのを待っとるけ。わしゃ、なんとかせにゃならんと、この年であせっとる。なんとしてもはよう祀ってやらんと、あの世に行った時、わし、戦友に顔向けできんからな。」 靖国神社参拝にこだわる歴代の日本の首相は、これをどう聞くか、私は知りたい。--』

 広い視野で、日本をとらえることのできる人で、日本の良い面悪い面を分かったうえで日本を思いとても誇りにされているから、3/11後のことをいろいろ思うと随分とつらく思っているのではないかと思われました。最新作が今年出版されているのがわかり、お元気なようでよかったと思いました。