朧月夜と春の海

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『ロッカショ』

 2万4000年後の地球へのメッセージ  STOP-ROKKASHOプロジェクト

2007年12月18日 著者 STOP-ROKKASHOプロジェクト  発行所 講談社

「2006年5月、ニューヨーク在住のアーティスト坂本龍一が、2007年に本格稼働する六ヶ所村の核燃料再処理工場に危機感を抱き、まず日本の外から声を上げる。ラッパーのshing02、世界的に著名なデザイナー、ジョナサン・バーンブルックらとともに、“team6”を結成。ウェブサイト(stop-rokkasho)でのクリエイティヴコモンズを使った芸術活動などを展開している。日本では、クラブキング代表の桑原茂一や、ミュージシャンのSUGIZOらがこれに共鳴し、イベント、Tシャツ制作、出版活動などを展開している。」

 私は、自分のことをマイノリティと感じているからか、普段だったら、著名なアーティストが取り組んでいる環境問題だからという理由で、本を選んだりは、しないと思うのだけれど、原発関係の本を何か読もうと思っていた時に白い背表紙が目にとまり、手に取っていました。

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辻 真一(つじ) SUGIZO(SG)  55ページ~

アメリカに「文化力」の差を見せつけたメキシコ人

 辻ー僕は、、メキシコから帰ってきたばかりでこのインタビューを受けていますが、実は、そこで200万人以上という史上空前のデモに参加してきたんです。それはアートや音楽が溢れる実に楽しい集まりで、感動しました。

 メキシコでは大統領選挙が最近あって、かつてないくらいの僅差で、これまで通りの親米、新自由主義路線の候補が辛勝。いろいろなスキャンダルがあり、選挙違反もあり、結果を受け入れられないということで、みんなが動いた。メキシコは、アメリカにとって裏庭みたいな国で、一部の金持ちがますます富む一方、庶民はブッシュ路線の弊害を集中的に被ってきた。

 しかし今回、その庶民たちは、軍事と経済ではまったく太刀打ちできないアメリカに、逆に「文化力」の差を見せつけたんだと僕は思う。今回あらためて、世界が分かれ道にあると実感しました。

SG-人々の意識が大きく変わる転換なのかもしれませんね。

辻ーその意味で、六ヶ所、これも分かれ道だと思う。今はまだ靄に包まれて、それがその分かれ道かどうか認識できないかもしれないけれど。

SG-だからこそ伝えようと思ってる。六ヶ所のことを。

辻ー分かれ道でどっちの道を行くのかを一人ひとりが選ぶ。僕たちは今、そういう場所に立っているんだと思う。メキシコ人たちと僕たちは同じところに立っている。それを若い人たちに伝えたいな。

 

SGー今は救いようのない状況に思えるかもしれない。でも僕は、これは陣痛なんだと思うんです。これを乗り越えて新しい命が生まれるか、死産にしてしまうか、その分かれ道にある。

 それにしても、痛みを知らない人多い。たとえば渋谷を歩いている若者、ほとんどの人が六ヶ所のことを知らないと思う。真実にベールをかけられてきた。世の中の痛みを何も知らないだけの子供たち、ベールをはいで上げることが教育にとって重要なところだという気がします。それが「文化的貧困」からの離脱を可能にさせつ重要な鍵ではないかと。僕らも自分で知ろうと思い始めるまでは、些細な情報しか知らなかったわけだし、メキシコのことも六ヶ所でフィードバックできる。

 

57ページ~

植民地主義の恐怖

辻ー印象に残ったのは、ニュークリア・コロニアリズム(核植民地主義)というガビさんの言葉です。広島・長崎という悲惨な経験をもつ日本人でさえ、いつの間にか当たり前のように原子力の平和利用とか言うようになったでしょ。「平和利用だからいいじゃない」って、今は世界的な世論でもあります。

 IAEA国際原子力機関)のような国際機関だってみんな、原子力の平和利用という名のもとに原子力開発を進めている。あれが、ノーベル平和賞なんかとっちゃったりするんだから、こわいですよね。でも原子力の平和利用なるものの背景にあるのは、ものすごい格差であり、搾取であり、暴力だってことですよ。世界中の暴力の機構、組織がそこに集中的に動員されるような類のものなんです。

 それはウランを掘り出すところから始まって、そして、廃棄物をどうするかっていうところまで。それから抑止力として、また実際に戦争でどうやって使うかっていう政治や軍事まで。しかも廃棄物たるや、何万年にもわたって人類そのものの存続を脅かすという代物です。

 

辻ー核廃棄物もプルトニウムも増えていく一方で、それを標的にしたり、それを盗みたいという人たちも増えていく。これじゃあ、未来の民主主義も自由もありえないですよ。「原子力の平和利用」とか「原発はクリーンエネルギー」といったキャンペーンから、「原子力は経済成長の切り札」といった考え方まで、ガビさんなら、みんなまとめて核植民地主義っていうでしょう。僕ら、その植民地主義の真っ只中に生きているわけですね。

 

六ヶ所村ラプソディー』と伝統社会の知恵

辻ー鎌中ひとみさんが監督した『六ヶ所村ラプソディー』っていう映画を観て、共感を覚えました。

 

辻ー公的な領域、共の領域、私の領域、僕らには三つの領域があると思うんです。僕らの生きている今の時代は私的な領域と国家的な公の領域が肥大化して、世界を覆い尽くそうとしている時代。「文化的貧困」というのは、実はそれです。

 本来、文化とは、シェアリングなんだと思う。食べ物を分かち合うためにテーブルを囲む。それが人間の文化の原点でしょう。国家的なエゴが今、大手を振って歩いている。

 

 地球というのはすべての生き物の入会地、コモンズです。伝統社会には多かれ少なかれそういう知恵があった。これすらわからなくなった現代社会の状況を、僕は「文化的貧困」にあるというわけです。

 

 河野太郎(河野)    SUGIZO(SG)      78ページから

SG-では、なぜそれでもプルトニウムを作るのでしょう。

河野ー本当に不思議な話です。高速増殖炉ができて、エネルギーを石油に依存しないで済むんだったら、そこに選択肢が広がる。それならば、投資をして、頑張って、高速増殖炉をやることにはいいがあると思います。でも、政府ですら、「高速増殖炉は2050年までは実用化できない」と言っています。

 高速増殖炉がないならば、プルトニウムを持っていたって仕方がないんです。今使い道のないプルトニウムを作り出すことに多額のお金をかける必要はありません。そして、プルトニウムはテロリストに狙われる可能性があるということも考えなければなりません。

SGープルサーマルの技術も、まだ実質的には完成に至っていないということなのですか?

 

河野ーないです。プルサーマルとは何か?それは高速増殖炉ができないのに、プルトニウムだけを取り出してしまい、その処理をしないと国際的にも非難されるから仕方なくやるようなものです。

 日本が保有するプルトニウムが43トンもあって、そのプルトニウムすら使い道がないのに、毎年当たらしくプルトニウムを8トンずつ作っていくということは、誰が考えてもおかしな話だし、それに19兆円から60兆円近くの負担が国民にのしかかってくるということを知ったら、賛成する人は誰もいないでしょう。

SGーその真実を伝えることが、僕らのように先に知ってしまったものの役目だと思って、今、動いているのですが、河野さんも本当はそれを伝えたいのですね。

SGーなぜ、そもそも六ヶ所村に再処理工場を作っているのかってことなんですが。

河野ー原子力発電所でウランの燃料を燃やすと、使用済み核燃料をいうウランの燃えカスが出ますよね。日本の原子力発電所は、どこも、この使用済み核燃料をずっと原子力発電所の貯蔵プールにためてきました。ところが、もうこの貯蔵プールが一杯になりそうになってきた。

 使用済み核燃料の貯蔵プールが溢れると、その原子力発電所を止めないといけなくなる。原子力発電所を止めると、電力会社は1日に億円単位の損失が出るから、なんとかしなくてはならない。それならば再処理工場を建設して、その原材料用の貯蔵プールに使用済み核燃料を移動すればよい。要するに、どこかへ使用済み核燃料を持っていけば、原子力発電所を止める心配がなくなる、という電力会社の思惑なんです。

 ところが、青森県は「六ヶ所の再処理工場に使用済み核燃料を原材料として持ってきても、再処理工場がちゃんと動かなかったら、青森はただのゴミ捨て場になってしまう。」と反対する。だから、青森県をなだめるためには再処理工場を動かさないといけない。

 要するに、電力会社が原子力発電所を止めたくないがゆえに、再処理工場に使用済み核燃料を運び込ませてもらい、その条件として、「ここは使用済み核燃料のゴミ捨て場にはならないよ」という確認のために再処理工場を稼働させる、というのが構図です。そして、でてくるのが今日の時点で使い道のないプルトニウムです。

SG-ということは、六ヶ所村の再処理工場が動こうと動かなかろうとそれは大きな問題ではないということですね。

河野ーそう、再処理工場の貯蔵庫さえ使わせてもらえば、電力会社はどうでもいい。

SGー運転し始めても、いろんな事故があったりするのは、まだ完全な状態ではないと思ったほうがいいのですか?

河野ーこの再処理工場で初めて使う技術もあるので、何が起こるかわからないところがあります。「そのうちに、何か事故が起きて止まるかもしれない」と、電力会社の人も個人的におっしゃっていました。その事故が軽微であることを願うばかりです。

 ただ、この問題の底流には、使用済み核燃料の処理問題をきちんと議論してこなかったという、日本の現状がある。

SGーそれはいわゆる原子力発電自体の問題になる。

 

SG-核廃棄物の半減期を考えたら、結局、何世代、何十代先の子孫に責任を押し付けているかたちになりますよね。

河野ーまあ最終的には、使用済み核燃料であれ、それを再処理した高レベル放射性廃棄物であれ、少なくとも300年は人間がコントロールしていく必要があります。そしてその後、地層処分で未来永劫に人間世界とは切り離します、ということになっています。

アメリカも危惧する日本の再処理政策

SG-気になるのは日本がプルトニウムをたくさん持っていたりして、それを海外からはどうやって見られているのでしょう。

河野ーこの間、僕の母校のジョージタウン大学の国際関係学部長で、昔、核開発を止めると言った北朝鮮とアメリカの包括合意をやったロバート・ガルーチという人が、この問題で来日したんです。

 どういうことかと言うと、プルトニウムは核物質であっても、持ち運びが便利なんです、だから、「なぜ、テロリストが簡単に持ち運べるような便利なプルトニウムを、使い道もないのに何トンも持つ必要があるのか」と質すためです。

 それに加え、日本の警備や管理はどうなっているのか疑問があるということでした。たとえばアメリカや、ロシアに対して、「核兵器や原子力潜水艦などを解体したときに出てくるプルトニウムには、持ち運びしにくいように汚い放射能を混ぜろ」と言っています。使用済みの核燃料のように、危なくて簡単に触れられないようなものなら、テロリストだって持っていけない。

 そしてアメリカがすごく気にしているのは、「すでに43トンもあるプルトニウムを日本はいったい、どうするつもりなのか」ということ。高速増殖炉なんて、すぐにはできないだろう。実際、政府も2050年まではできないと言う。しかも、今ある43トンをどうするかという議論をしようとしているのに、日本は毎年、六ヶ所の再処理工場で8トンも作りますという……・

SG-そこにまた危ないモノができている。でも、逆にちょっと安心したのは、アメリカがそれをどうするんだ?という意見を持っていること。むしろアメリカから、「それを使わせてくれ。そして日本は、そのためにもっと生成してくれ」という指令があったとしたら、それこそ恐ろしいことだなと思っていたから。

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